実録!女子大生の人生奪った詐欺師の洗脳手口


卒業を間近に控えた女子大生、サラ・スミス。
真面目で優秀な学生だった彼女は突然、恐ろしい陰謀に巻き込まれた。

イギリス、シュロップシャー州にあるハーパー・アダムズ大学。
その近くにあるパブは学生たちの憩いの場所だった。
大学4年生のサラ・スミスも常連客の1人で、実家は大きな牧場を営む裕福な学生だった。
いきつけのパブに新しく入ったバーテンダーのロバートは、恵まれたルックスと軽快なトークですぐに多くの女性客の心を掴んだ。
しかも、彼はオックスフォード大学で心理学の学位を取ったインテリだった。
しかし、サラは彼に違和感を覚えていた。
それでも、気さくなロバートはサラたちと打ち解け、徐々に親しくなっていった。

そんなある日…サラの親友ジョンと仲の良かった友人が自殺したのだ。
だが…ロバートによれば、ジョンの友人は自殺ではなく、IRAのテロリストに殺されたというのだ!

IRA(アイルランド共和軍)とは、イギリスの一部である北アイルランドの分離独立を目指すテロ組織。
当時、イギリス国内では、このIRAの活動が激化、爆弾テロ事件や暗殺事件が多発していた。
だが…なぜロバートにそんなことが分かるのか…?

なんと…ロバートはイギリス保安局の諜報員だというのだ!
ジョンは、すでにその話を打ち明けられていた。
実はサラ達の大学は、密かにIRAの活動の中心地になっており、ロバートはそれを調査するために派遣されたというのだ!

事実、サラたちの大学の元学生が、IRAの銃の密輸にからんで射殺されるという事件が起きていた。
そのため大学内にIRAのテロリストがいると、盛んにウワサされていたのだ。
自分の身近にテロの脅威が迫っている。
その恐怖は、思いがけない形で彼女を巻き込んでいく…

そんなある日、ロバートの素性がテロリストたちに漏れてしまったのだ!
IRAの殺し屋は、ロバートだけでなく、彼と親しくしているサラやジョンまで狙っているという。
もし捕まれば、拷問されて殺される…一刻も早く身を隠す必要があった。

そして、2人は別々にロバートが準備した潜伏場所に連れて行かれた。
家族には事前に事情を話していた。
1日中部屋にこもり、ただロバートが持って来る食事を待つだけの生活。
単調な毎日だったが、常に孤独と恐怖に襲われ、気が休まる時は一瞬たりともなかった。
終わりの見えない逃亡生活はやがて1年になろうとしていた。
サラは、家に帰りたいと切望したが…サラが家に戻れば、家族にも危険が及ぶ…
それでも両親に会いたがるサラに、ロバートは…彼女が何とか両親と会えるように上司に掛け合ってくれた。

両親は、連絡先だけでも教えて欲しいと言ったが…
名前を変え、居場所も転々としているうえ、安全のためにも教えることができなかった。
その後、サラは逃亡資金を調達するため、何度か両親に電話を入れてはいたが、潜伏生活を送る中、家族に会ったのはこの一度きりだった。

そして逃亡から6年…彼女は、ロンドンのホテルの従業員として働いていた。
居場所を転々とする逃亡生活を送っていたサラだったが、やがて少しずつ、ロバートの諜報活動の手伝いをするようになっていた。
ロバートによれば、サラと同じように逃亡生活に入った親友のジョンも、別の場所で諜報活動を行っているとの事だった。
しかし、そんな時でも…常に命を狙われる恐怖に怯えながら、隠れ家を転々とする生活を強いられた。

そんなある時…ロバートが突然、戻って来なくなった。
やがて2週間がすぎ、食糧も尽きた。

そして、空腹と恐怖に耐えながら3週間が過ぎた頃…ようやくロバートがやって来た。
何とかテロリストの目を欺くことができ、ひとまずは安心だという。
こうして、恐怖と隣り合わせの生活が10年も続いたある日、サラにとって重大な転機が訪れる。

ロバートの同僚のレナータと同居することになった。
しかし、その同僚には二重スパイの疑いがあるため、サラに彼女を見張って探って欲しいというのだ!
彼女には、サラは南アフリカの田舎の出身で、ヨーロッパの言葉はわからないと伝えてあるため、ずっと黙っていれば良いという。

サラは、これまで以上に困難な任務を任されることなった。
レナータが二重スパイだという手がかりはないか、監視して調べた。
当然、出される食べ物にも細心の注意を払った。

気が休まることのない同居生活。
こうして一言も会話を交わすことなく、3ヶ月が過ぎた頃のことである…
レナータのところに一本の電話がかかってきた。

電話を受けた後、出かけていったレナータは、2人の男性を連れて戻ってきた。
なんと、数日前、ロバートは逮捕されたというのだ。
さらに…この2人の男性は警察官だという。
捜査官によってサラに伝えられたのは、あまりに衝撃的な事件の真相だった。

すべてのきっかけは、サラがロバートに出会う2年前に遡る。
その頃、ロバートには理想の恋人が出来た。
教師をしている知的な女性だった。

実はロバートは勉強嫌いで大学に進学できず、満足な仕事にも就けずにいたため、学歴コンプレックスを持っていた。
そんな彼にとって、知的な彼女は自慢だった。
ところが…彼女のクレジットカードを勝手に使った事がバレ、あえなく破局。
捨てられたのは自業自得だったが、彼女への未練をなかなか断ち切れずにいた。

そんな矢先、働き始めたのが…サラたちの行きつけのバーだった。
そこで彼はすぐに女性客たちの心を掴み人気者になった。
なぜか? ロバートは自らのコンプレックスを埋めるために、偽の学歴を吹聴していたのだ。
もともとルックスも良く、話術にも長けていたロバート。
その上、高学歴とあって、瞬く間に女性客の間で注目の的となっていた。
だがサラだけは…ロバートに興味を示さなかった。

経歴を嘘で塗り固めても、自分にまったく興味を示さないインテリ女子大生サラ。
その態度は、かつての恋人を思い起こさせた。
自分を拒絶する知的な女性…そして彼は、高学歴の女性への復讐という、歪んだ感情を芽生えさせていく。

そんなある日…サラと親しかったジョンが、友人が自殺したため落ち込んでいた。
それを見たロバートは、軽い気持ちで…自殺ではなく、テロリストの仕業だと嘘をついた。

この嘘が思いがけない反応を生み出す。
当時イギリスでは、IRAのテロリストの脅威が身近に存在していたという事もあり、ジョンが簡単に信じ込んだのである。
それはサラも同様だった。

たとえ学歴のない自分でも、口先だけで優秀な学生を支配できる。
そう確信したロバートは、サラに対する歪んだ感情を満足させるために次なる手に打って出る。
自分の正体がバレ、自分だけではなくサラ達もテロリストに狙われていると嘘をつき、サラを孤立させ、肉体的にも精神的にも追い込んだ。
こうして彼女は、徐々にマインドコントロール状態に陥っていったのである。

だが、逃亡生活が10年を過ぎた頃、ロバートはサラを潜伏させる場所に困り始める。
そこで考えたのが、レナータの家を利用することだった。
見ず知らずの2人を同居させるリスクは承知の上だった。
しかしこの時彼は、自分のつくウソに絶大な自信を持っていた。
だが、この自信が命取りになる。

ロバートに騙されたと、複数の女性から被害届が出されたのだ。
実はレナータもまた、被害者の一人だった。
だが、サラ以外の人物は監禁されていたわけではない。
では、ロバートは彼女たちに一体何をしたのか?

実はロバートは、サラの一件で味をしめると、ターゲットを裕福な女性にかえ、好意を利用し接近し、お金をだまし取っていた。
そして同様の手口で次から次へと女性を手玉にとっていたのである。

お金を騙し取られていたのは、実はサラも同じだった。
彼女は、両親に準備してもらったお金や、自分がホテルで働いた稼ぎを、逃走資金が必要だというロバートにすべて渡していた。
その額は10年間で18万ポンド、およそ3600万円にもなっていた。
こうして10年にも及ぶ支配は、終わりを告げたのである。

一方、サラの親友ジョンもまた、ロバートにお金を騙し取られていた。
しかし…逃亡生活を始めて5年、両親に実家に隠れた方がよいと説得され、ロバートから離れた。
だがその後も彼が諜報部員であると信じ続け、テロリストの影に怯えていたという。

ロバートに出会ってしまったために人生を狂わされたサラ。
ところが、理不尽な出来事はこれで終わりではなかった
彼は、サラを含む8人から、日本円でおよそ2億円を騙し取り、詐欺の罪で懲役9年の判決を受けた。
だが…サラを10年間支配していたことについては、罪に問われなかったのだ。

裁判でロバートはこう主張した。
サラを無理矢理、監禁するようなことはしておらず、彼女は自分の意思でいつでも逃げることができたと。
その結果、法律的には詐欺以外の罪を問うことは出来なかったのである。
ロバートはすでに刑期を終え、自由の身になっているが、その行方はわからない。

10年もの逃亡生活の間、サラはなぜ周りに相談しなかったのか?
彼女はこう話している。
「諜報部員に私や家族が危ないと言われたなんて話、誰に相談すればよかったっていうの? 誰もその話が本当かどうか判断できないでしょ。相談した相手から情報が漏れて、もっと恐ろしい事が起こるかもしれない。黙っている事が自分と家族を守る最善の方法だと信じていたんです。」
彼女は、現在…両親と実家の農場で暮らしているという。


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